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GML Report vol.3

生活者の意識や行動変容を促す工夫

GML Report vol.3

世界的な気候変動の兆候

世界気象機関(WMO)は、「2023年7月の1か月の世界の平均気温は、記録が残る1940年以降で最も高くなる可能性が非常に高い」と発表した。これを受けて、国連のグテーレス事務総長が「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰の時代に入った」と発言している。我が国でも連日猛暑が続き、猛暑日の日数などで過去最多記録を更新している。

CO2削減に対する思考の転換が必要

この事象は、今年発生しているエルニーニョ現象によるところが大きいが、地球温暖化の影響がそれを底上げしているとの指摘も多い。先の有史以来の最高気温の報に併せてWMOのタータス事務局長は、「温室効果ガスの排出削減を減らす必要の緊急度が増している。気候変動対策は贅沢ではなく、必須だ」とコメントした。

この「気候変動対策は贅沢ではなく、必須だ」というコメントは、多くの製品・サービスでみられる「CO2削減効果が高ければ高価格が当たり前」「高価格なものを買えなければCOを削減できなくても仕方がない」といった現状に対し、思考の転換を求めるものである。

筆者は、幅広い業種の民間企業向けに脱炭素化を進めるコンサルティングを提供してきたが、最近では特に、生活者の意識や行動変容を促す「グリーン・マーケティング」を推進している。

「日常的に」行動を促すグリーン・マーケティング

「グリーン・マーケティング」では、CO2削減に資するものを生活者が意識的に日常的に購入する、という行動を顕在化させることを重視する。それによって、これまでB2Bに偏ってきた脱炭素市場を、B2C向けにも大きく伸ばすことを目指しており、「気候変動対策は、贅沢ではなく必須」というメッセージを具体化することでもあると考える。「グリーン・マーケティング」では、生活者が「意識でき、かつ、日常的に」動けるという点から、

  • 住宅や耐久消費財など高額商品を購入するときだけ、省エネを考えるのではない
  • 特定のブランドを購入するときだけ、消費者として環境配慮に参加するのではない
  • 買ったものがたまたまエコだった、というわけでもない
    生活者の学びを通じて企業が伝えたい内容を正しく届けることを諦めない

上記のような特徴を有すが、これによって、従来のB2C市場で難しかった、「販促キャンペーンや直接的な経済的インセンティブがなければ環境貢献で行動する生活者はほとんどいない」という状況を解決できる可能性がある。

そのヒントとなるのが、高知県に本社を置くマーケティング支援会社である株式会社アッシェの「もぐもぐチャレンジ」の取り組みである。

賞味・消費期限が迫った食品に貼られた「もぐもぐシール」を集めると寄付や抽選に参加できるプログラムで、サミットやイズミなど300店舗近くの食品スーパーに導入されている。食品ロスを減らすことで、小売店は廃棄に伴うCO2排出を削減でき脱炭素に寄与できるし、廃棄に伴う経済的な損失も回避できる。生活者は、賞味・消費期限の迫った食品を選べば、シールを集めて抽選に参加するという楽しみも得られることから、環境に貢献できる商品を日常的に購入する理由が増える。

特に生活者向けの意識については、アッシェが実施した調査(2023年4月20日公表)を見てみると、下記のような結果が出ており、行動変容が確かめられているという。

  • 参加の目的は、スーパーマーケットで「お得」「気軽」「食品ロス削減に貢献」できるから
  • 「値引きシール」「もぐもぐシール」それぞれの目的購買率を比較した場合、「もぐもぐシール」の目的購買率が「値引きシール」に比べて2倍以上のスコア
  • 参加者の81%が、食品ロス問題への意識変化を実感
  • 参加者の66%が「もぐもぐチャレンジ」の参加により実施店舗への来店頻度が高くなった
出典:食品ロス削減プログラム「もぐもぐチャレンジ」消費者調査 2023年4月20日公表

「真面目に」語るだけではなく楽しく取り組める環境貢献を

アッシェの取り組みは、誰かに過度な負担を強いることなく自立的な形で環境貢献を実現しつつ、モノやサービスの販売に寄与できる方法と言える。上で示した、「グリーン・マーケティング」のエッセンスが備わっている。「日常的な行動のなかで、面白く、楽しく、それでいて実利もある。脱炭素や環境のことを真面目に語る必要はなく、環境貢献できる工夫がそこにはある。」と言えるのではないか。これこそが、「グリーン・マーケティング」のあるべき姿だろう。

株式会社日本総合研究所
リサーチ・コンサルティング部門
グリーン・マーケティング・ラボ
ラボ長/プリンシパル/主席研究員
佐々木 努