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GML Report vol.2

脱炭素に係る生活者の行動変容~契機づくりと自分ゴト化がカギ~

GML Report vol.2

注目される脱炭素に係る生活者の行動変容

2023年4月札幌でG7気候・エネルギー・環境大臣会合が開催された。カーボンニュートラルの実現の重要性が改めて確認される中、生活者の行動やライフスタイルの変容による需要側の対策の強化が指摘されたことに注目したい。「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」を立ち上げた環境省は、脱炭素につながる製品・サービスの提供・提案やインセンティブ・情報発信を通じた行動変容の後押しを目論む。

行動変容のポイント

そこで取り上げられている取り組み例を見ると、脱炭素に係る行動変容のポイントは次の3つに整理できる。

行動が正しいことを伝える
博報堂が主導する「Earth hacks」では、CO2排出量の従来製品比での削減率「デカボ スコア」を表示した商品を紹介・販売する。自身の購買行動が正しく社会に貢献できていることを見せ、行動を促す。
行動が役に立つことを伝える
北九州市の「KitaQ Zero Carbon」では、「actcoin」というアプリを活用して市民の社会貢献活動の参加状況を可視化する。自身の行動は小さくても、皆が集まれば大きな貢献になるのを見せ、行動を促す。
行動が難しくないことを伝える
仙台市などで展開されている「SPOBY」では、乗り物で移動すべき距離を歩行や自転車で移動した場合のCO2排出抑制をポイント付与する。アプリを使って散歩するだけで貢献できる気軽さで、行動を促す。

ポイント付与による行動変容の功罪

ロイヤリティマーケティング社の「Green Ponta Action」や川崎市と富士通による「Green Carb0n Club」も注目される。これらのアプリでは、歩数や快適睡眠など参加者の行動や環境関連の記事閲覧や催事参加などでポイントが付与され、行動変容を促すインセンティブとなっている。

こうした行動変容のプログラムは、「可視化」と「ポイント付与」を主な動機に据えて設計されている。これらのうち「可視化」は、脱炭素の効果を計測する上でも欠かせない機能である。しかし、「ポイント付与」に過度に依存した設計には注意が必要となる。ポイントは行動変容を促す施策としては即効性が高い一方で、一度経済的インセンティブで動いたユーザーは、その動機を失うと行動を持続させる意欲を失いがちとなるからである。

ポイントの「原資」があるうちに行動変容を持続・定着させ、ビジネスモデルの構築を図ることが肝要となる。ただし、この壁を乗り越えるのは相当に難しく、工夫が必要となる。

非経済的インセンティブによる行動変容

この壁を乗り越えるヒントとなるのが、DATAFLUCT社がプロサッカークラブの松本山雅FCと共同で取り組む、ファンのエコ行動によるCO2削減である。使用するアプリ「becoz challenge」は、日々のエコ行動を可視化するが、直接的なポイント付与による動機付けというよりは、「自分が応援するチームのため」という非経済的な動機でCO2削減行動を促すことに大きな特徴がある。これであれば、ファンであり続ける限り、動機は維持できそうである。

契機づくりと自分ゴト化が行動変容のカギ

広く全体的な「マス」に対して行動変容を促すのが難しいのは、「脱炭素」というテーマが多くの生活者にとって、自分に関係のないこと、興味・関心がないこと、すなわち他人事であるということに尽きる。だから、多くの人に興味を持ってもらえる「ポイント」を設定することとなる。

生活者に脱炭素を自分ゴト化してもらおうにも、そもそも興味・関心が低いため難しい。だから、「脱炭素を知ってください」と正面突破するのではなく、「面白そうだな」や「たまたまやってみた」という別角度から脱炭素に触れる契機をつくり出すことが肝要である。そこから、楽しみながら学ぶことなどで、実際に脱炭素行動変容を経験してみることが有用と考える。
どのようなアプローチが生活者に「受けるか」を考えるのは、まさにマーケティング活動そのものである。属性に適したやり方で丁寧にコミュニケーションを設計するほかない。

株式会社日本総合研究所
リサーチ・コンサルティング部門
グリーン・マーケティング・ラボ
ラボ長/プリンシパル/主席研究員
佐々木 努