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GML Report vol.1

「グリーン・マーケティング」への期待の高まり

GML Report vol.1

カーボンニュートラルの社会的な需要の高まり

ここ最近のエネルギー市場は、世界的な供給不安や価格高騰で、供給側・需要側ともに混乱を極めている。日本では円安も相まって、経営や家計に大きな影響を及ぼすに至っている。こうした先行き不安の局面では、カーボンニュートラルの潮流も幾ばくか弱まるかに思えたが、実際には弱まるどころか日増しに強まっているとも言えるほど活況にある。

セイコーエプソンが日本の製造業ではいち早く国内全拠点の電力を再エネに転換したのが2021年11月である。それを皮切りに、多くの企業が製造過程におけるCO2削減を進めており、2030年や2040年までに自社工場での排出ゼロを目指す企業も多い。ここ最近でも三菱ふそうトラック・バスが、従前の目標を14年も前倒しして2025年に国内の自社工場でのCO2排出を実質ゼロにする目標を発表した。投資家や顧客からの要請が強まる中、「Scope1・2(※1)」における排出ゼロを目指す動きは、環境先進企業はもちろんのこと、多くの企業がそれに追従して取り組みは拡大している。

「CO2排出削減」はもはや社会貢献の文脈に留まらない

こうした中、脱炭素に関して先進的な企業の関心は、「Scope3(※1)」に向けられ始めている。その端緒として、CO2排出削減価値を訴求する素材が登場している。例えば、国内高炉3社は相次いでカーボンニュートラル鋼材について発表した。神戸製鋼所は低CO2高炉鋼材「コベナブル・スチール」を、JFEスチールは電炉への切り替えによる「グリーン鋼材」を、日本製鉄は将来的な革新的技術の導入も含めてCO2排出を実質ゼロにする鋼材「NSカーボレックス・ニュートラル」を、需要産業から寄せられる将来的な要請に対応するために展開するという。実際、今治造船は前述の鋼材を採用したばら積み貨物船を製造することを公表し、日産自動車も同鋼材を量産車に採用することを公表した。

高機能性やリーズナブルな価格に加え、CO2排出量が素材における価値の一つとして認識され始めた証左である。脱炭素性能が最終製品の市場受容性に影響を及ぼすとの判断があるからこそ、CO2削減に資する素材を作り、それを採用する一連の動きにつながっている。B2Bの領域においては、CO2排出削減はもはや社会貢献の類の文脈ではなく、ビジネスで勝ち抜くために取り組まなければならない競争戦略上不可欠な要素に昇華している。

B2C領域での消費者の脱炭素行動を促す工夫

B2Cの領域でも、エンドユーザーをも巻き込んだカーボンニュートラルの動きも勃興し始めている。その一例が、博報堂が主導する「Earth hacks」である。このサービスは、商品やサービスのサプライチェーン全体でのCO2排出削減量を算出し、「デカボ スコア」と称するマークを付与して可視化するものだ。トヨタ自動車や日本航空、UCC上島珈琲などの企業・ブランドが参加している。脱炭素に拘りをもって取り組んできた企業やその商品・サービスの価値を、脱炭素に関心の高い消費者に届けることを目的に据えているところが特徴だ。対象商品の購入を通じて削減されたCO2量をサイトに掲載して消費者の脱炭素行動を促す工夫などは、その成果が如何ほどのものかは今後注目を集めることだろう。

脱炭素社会構築への近道に

このように見れば、カーボンニュートラルの取り組みは、明確な要求事項に応えるB2B領域が話題の中心であり、目下多くの企業の関心もそこにある。しかしながら、脱炭素に係る新たにニーズを創出しようとする試みも出始めていることにも気付く。脱炭素社会の構築にはB2C領域での脱炭素の推進は欠かせない。カーボンニュートラルをはじめとしたグリーンな価値を訴求した商売を確立すること、すなわち「グリーン・マーケティング」の手法を検討することが、脱炭素社会構築の近道になることだろう。

株式会社日本総合研究所
リサーチ・コンサルティング部門
グリーン・マーケティング・ラボ
ラボ長/プリンシパル/主席研究員
佐々木 努